あの湖のあの家におきたこと : トーマス・ハーディングのレビューです。
ひとつの家が見せる表情はその都度違う
家の歴史は人の歴史、家族の歴史ともいえる。
たいていの建物は自然による被害や震災、戦争などによって壊されてしまうけれども、奇跡的に残っている建物も世の中にはたくさんある。
そんな建物たちは、私たち以上に歴史を知っており、いい時も悪い時も人に寄り添って存在していたのだなぁと、読みながらしみじみ感じました。
このえほんに出て来る家は、作者の祖母が暮らした家のお話です。
ドイツのベルリンの町はずれにある湖のほとりにある一軒の可愛いおうち。
ひいおじいちゃんが建てたおうちはすでに100年ちかくもこの地にあります。
2013年、作者がこの家を訪れるまで、この家は4つの家族が住みました。
曾祖父の家族、音楽が好きな家族、町から来た夫婦、帽子の男の一家。
楽しいとき、悲しい時、誰も居ない朽ちた時間。
ひとつの家が見せる表情はその都度違います。
家も人間と同じ。様々なことに翻弄されながら歴史のなかに居続けるのです。
戦争、差別、迫害と分断、愛と憎しみ。ドイツの歴史と共にあった「あの家」。
再び光をを取り戻す時間が来ることを、わたしは読みながらひたすら待っていた気がします。
表紙の家を去る人々と、空を飛ぶ黒い影がとても印象的。
こんな悲しい風景を二度と見ないためにこのえほんは存在する。